2000/01/03
財投事業に対するチェックが改革の基本理念
週刊金融財政事情 2000年1月3日 新年特大号
国会には予算と共に財投計画が提出されている。しかし、従来その中身はほとんど審議されておらず、決算委員会での事後的チェックにおいても突っ込んだ議論はあまりなされていなかった。
そこで、自民党行革推進本部は各省庁が所管する特殊法人の財務諸表等をすべて提出させることにした。自民党本部の一室は資料で山積みになり、われわれはそれを一つ一つ検証していった。
その結果明らかになったことは国会が承認した政策目的を達成するために存在するはずの特殊法人の運営がきわめてルーズであり、最終的に発生する損失を税金で埋めている姿だった。
こうした状況を改善するためには、まず政策目的自体を検証する必要がある。従来は省庁の説明を聞いて党の各部会が了承していたが、そこでは将来税金を投入しなければならなくなるリスクが明確にされていなかった。
また、政策目的を達成する手段はさまざまであり、特殊法人でなくても民間で十分に達成可能な事業もあるはずだ。しかし、どのような手段をとればコストが最も低くなるかの検証は十分になされていなかったし、恒常的なチェックも行われてこなかった。
さらに、一般会計から財投機関への安易な内部補助が行われることについては、財投の仕組み自体にも原因があるのではないかと疑われた。つまり、公的資金は大蔵省資金運用部に全額預託されるが資金運用部は抱え込んだ金を使うために不透明な投融資を行いかねない。しかも、資金運用部だけは損をしないように運営されるから財投機関にしわ寄せがいき、結局は税金で財投の尻拭いをする構図が生まれてしまう。
したがって、われわれは政策目的を必要最小限の資金で実現するためには大蔵省資金運用部への預託義務を廃止する一方、各財投機関が自らの財務内容と事業内容を明らかにし、財投機関債を発行して市場から資金を調達する仕組みのほうが優れていると考えた。
これは特定のプロジェクトをファイナンスするためのボンドを発行することにより、当該プロジェクトを市場が検証するというアイディアである。プロジェクトの効率性や将来の税金負担の可能性を織り込んだうえで、それが「公的にサポートすべきものかどうか」を検証することを市場に対して期待するわけだ。
いまの財投システムでは預託期間が七年であるにも関わらず、財投機関への融資は二〇年近くの長期貸付となっている。財投機関サイドには、もっとフレキシブルに資金調達したいという願望がある。ならば、もっと自由にやらせればよい。
従来、公的機関は必要な償却をしないなどきわめていい加減な会計処理を行ってきたが、市場から資金を調達しようとすればこれは許されない。たとえ、政府保証を付けるとしてもディスクローズが必要になるから、財投事業の検証可能性が増すことになる。
以上が財投改革の基本的なコンセプトであるから、資金運用部による財投債の発行は本来限定的であるべきだ。財投債は財投機関の資金繰りをつけるための例外措置という位置付けである。
財投機関からは「自力で財投機関債を発行することはできない。政府保証をつけてくれ」という声が聞こえてきそうだ。これに対しては「まずはやってみろ。できるかどうかは誰にもわからない」といいたい。実際に債券を発行している財投機関では、そんなにプレミアムも乗っていない。
要は、財投に対するチェックが現在、まったく働いていないことが問題なのだ。市場によるチェック、所管省庁以外の第三者、国会等によるチェック体制を確立することが急務である。行革推進本部の報告書では、財投機関に対する評価監視委員会を内閣府に三条委員会として設置することが盛り込まれている。その重要性をあらためて指摘したい。
預託義務廃止に伴う郵貯、厚生・国民年金積立金の自主運用については、そこに金がある以上、なんらかの形で運用せざるをえないのであって、大蔵省が運用すれば問題ないのに自主運用すれば市場に悪影響を与えるという発想は過去にとらわれすぎだと思う。政府は一つなのであって、大蔵省、郵政省、厚生省などの役所は政府の部分にすぎないのだ。
しかも、財投機関が一般会計からの補助によって成り立っている以上、「資金運用部による安全な運用」という姿は擬制にすぎない。公的資金を調達した行政機関が自らの責任で、国民に運用方針や実績を明らかにしながら運用したほうがよほど健全である。
ちなみに、現在の郵貯による自主運用では運用方針も明らかではないし、個別運用委託機関の選定基準や実績も明らかではない。しかし、公的年金の自主運用を担う年金福祉事業団は、これらの点をオープンにしている。
私が郵政省の担当課長にこの点を指摘すると「哲学の違いです」と答えた。彼らは郵貯に集まった金を自分達の金だとでも思っているのだろうか。損失を税金で補填しなければいけない以上、運用失敗の可能性を最小限に抑えるため運用過程を透明にすることが絶対に必要である。